クールな御曹司と愛され政略結婚
ケチャップのボトルを振りながら聞くと、身体を起こした灯が眉をひそめた。



「…なにに?」

「オムライス」

「書くって?」

「え?」



自分の分にケチャップで"YUI"と書いているのを、灯がわざわざのぞきに来て、あぜんとした様子で見守る。



「まさか、俺のにも書く気か」



そこで私はようやく、灯がなにを言っているのか理解した。

あれっ、もしかして、これってみんなやらないの?



「あの、うちだと全員、好きな言葉書くんだけど」

「たとえば?」

「お父さんなら"バーディ"とか、テスト前なら"100点"とか…」



灯が笑いをこらえているのを見て、急に恥ずかしくなった。

嘘、一般的な文化だとばかり思っていたのに。



「え、子供っぽい? やだ?」

「いや、書いてくれていいけど。悪いが言葉は思いつかない」

「じゃあ"灯"って書くよ」

「漢字かよ」

「ローマ字だと字数多くて、味濃すぎちゃうかもしれないから…」



なんでそんなに笑うの?

肩を震わせている灯の横で、真っ赤な顔を自覚しつつ丁寧に"灯"と書いた。


私、この字が好きなのだ。

ビーコンの社名のもとにもなっている名前。



「佐鳥家って平和だな」

「今気づいたんだけど、たぶんそれぞれが好き嫌い多いから、取り違えないようにっていうお母さんの工夫だと思う」

「唯、そんなに好き嫌いあるか?」

「私はないんだけど…」
< 63 / 191 >

この作品をシェア

pagetop