クールな御曹司と愛され政略結婚
『いい返事かな』

「残念ながら仕事中でね、夜通し缶詰なの。誰でもいいなら灯を誘ってあげてくれない? 今ひまなはず」

『なにが悲しくて土曜の夜を男とサシで過ごさなきゃいけないの』

「たまにはいいじゃない」

『俺と野々原をふたりにしていいの? 俺、本気で交渉するつもりだよ』



ぎくっとした。



──正直きついんなら、うちにおいで。



忘れていたわけじゃないけれど、考えないようにしていた自分に気づく。

きつくなんかないよ。

灯のそばにいるのは、きつくなんかない。



「…灯が、私を手放さないと思うよ」

『まあ、そうだろうね』



めいっぱい強がって笑ってもらおうと思った台詞は、予想に反して受け入れられてしまった。

拍子抜けして、思わず聞き返す。



「そう思う?」

『自分が言ったんでしょ』



そうなんだけど。



『野々原が今後も二人体制でやっていきたいと思ってるんなら、絶対に手放さないと思うよ。なかなか見つかる相手じゃないもん』



ダブル社長のひとりとして会社を経営している人の言葉と思うと、重みがある。



「交渉してよ、先輩。それで灯がどんな反応したか教えて」



先輩が声を立てて笑った。



『野々原を試したいんだ? 素直だなあ。協力してあげてもいいけど、あんまりそういうかわいいこと言うと、プライベートでも口説くよ、気をつけて』

「嘘ばっかり。先輩も私のこと、妹としか思ってないくせに」

『"も"?』
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