クールな御曹司と愛され政略結婚
あっ…。
しまった、本音が出た。
「なんでもない」とごまかしてはみたものの、鋭い一樹先輩を、これでかわせたわけがない。
先輩は少し沈黙してから『唯子ちゃん』と諭すような声を出した。
「…はい」
『どんなに兄貴っぽく思えても、あいつに妹なんか、いないんだぜ』
「えっ?」
切れてしまった。
最後の、どういう意味だろう。
一樹先輩らしい、謎かけみたいな物言い。
これはもう、時が来るか本人に口を割ってもらうかしないとわからない。
いいや、とあきらめて、携帯をポケットに戻し、一晩まるまるかかりそうなセッティング作業に意識を戻した。
* * *
「で、先輩となに話したの?」
「オムライスで発覚した食文化のギャップについてとか」
「茶化さないで教えてよ!」
PRイベントを日曜に終え、灯が寝た後に家に帰り、翌日は一度出社して、夕方からまたロケのために関東の北部まで来ている。
半年続いた怒涛の仕事ラッシュも、この仕事が終われば、一息つける。
30代女性向けのファッションブランドの夏セールのCFで、薄明の大地を、夏の商品を身に着けた女性が歩くシーンを撮ろうとしている。
二泊のロケで、二回の夜明けと二回の日没を狙う予定だ。
つまり今夜は、夜通しセッティング、リハ、夜明け待ちという徹夜コース。
『30代のどこかで、体力的限界が来そうだなあ』
照明用のトラスが組みあがるのを見ながら、ぽつりとつぶやいた灯の気持ちもわかる。
しまった、本音が出た。
「なんでもない」とごまかしてはみたものの、鋭い一樹先輩を、これでかわせたわけがない。
先輩は少し沈黙してから『唯子ちゃん』と諭すような声を出した。
「…はい」
『どんなに兄貴っぽく思えても、あいつに妹なんか、いないんだぜ』
「えっ?」
切れてしまった。
最後の、どういう意味だろう。
一樹先輩らしい、謎かけみたいな物言い。
これはもう、時が来るか本人に口を割ってもらうかしないとわからない。
いいや、とあきらめて、携帯をポケットに戻し、一晩まるまるかかりそうなセッティング作業に意識を戻した。
* * *
「で、先輩となに話したの?」
「オムライスで発覚した食文化のギャップについてとか」
「茶化さないで教えてよ!」
PRイベントを日曜に終え、灯が寝た後に家に帰り、翌日は一度出社して、夕方からまたロケのために関東の北部まで来ている。
半年続いた怒涛の仕事ラッシュも、この仕事が終われば、一息つける。
30代女性向けのファッションブランドの夏セールのCFで、薄明の大地を、夏の商品を身に着けた女性が歩くシーンを撮ろうとしている。
二泊のロケで、二回の夜明けと二回の日没を狙う予定だ。
つまり今夜は、夜通しセッティング、リハ、夜明け待ちという徹夜コース。
『30代のどこかで、体力的限界が来そうだなあ』
照明用のトラスが組みあがるのを見ながら、ぽつりとつぶやいた灯の気持ちもわかる。