クールな御曹司と愛され政略結婚
それだよね。

いまや引っ張りだこのプロデューサーである灯と、そのアシスタントである私が同時に一週間以上休むなんて、言っていて現実味がない。

灯自身は、「どんな長期の休暇も、計画性さえあれば善」という考えなので、調整がつけば休むことはできるのだけれど、その調整がつくのがいつになるか。



「来年になるかもしれないけど、やってみる」

『そうしなさい、これからふたりで旅行なんてなかなかできなくなるんだから。若いうちに行っておくのがいいわよ』



若いったって、私はもう28歳、灯は今年30歳だ。

まあ母から見たら私も灯も、産まれたときから見ている子供たちがやっと一人前になってきた、くらいの感覚なんだろう。

弱火でふっくらと焼いたフレンチトーストを、白い磁器のプレートに移す。

仕事でカナダに行くたびまとめ買いしてくるメープルシロップをちょうどよい分量かけて、部屋に戻った。



「お父さんたちは、仲よくやってるの」

『気持ち悪いくらいよ、昨日も夜、一緒にテレビゲームしてたわ』



小学生か。



『お父さんが、式の手順を気にしてるけど』

「私と一緒に歩くだけだよ。当日説明があるから、心配しないで」

『大丈夫?』

「間違えたら間違えたで、いい思い出だし」

『それって、ナーバスな新郎新婦に対してこっちが言う台詞じゃないかしら』



そういえばそうかも。

父によろしくと伝えて通話を終えた。

情報収集のためにラジオをつけて、耳で拾いながら手早くフレンチトーストを食べてシャワーを浴び、髪を乾かす。

最近の朝のテレビは情報量が少ないか偏っているかなので、あまり使わない。



「ドル105円、ユーロ119円」



口ずさみながらクローゼットを開け、クライアントと会うのでジャケットスタイルを選び出し、メイクをし、最もケアが楽だと信じている緩いウェーブをかけた髪を、後頭部の真ん中くらいの位置で束ねた。
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