クールな御曹司と愛され政略結婚
つい噛みつくような声になった。
クライアントのアテンドも、現場での大事な仕事だけれど、灯がそこまでする必要なんてない。
自分のきつい口調にはっとした私に、灯が微笑む。
「そう言うな」
「ごめん」
「回す30分前には呼んでくれ。じゃあ、任せた」
草地のはずれのほうに、クルーの車がまとめて停めてある。
灯は吉岡さんを伴ってそちらへ行き、自分の車に彼女を乗せた。
車内灯に照らされたふたりが、嫌でも目に入る。
吉岡さんが、灯の腕に触れて、なにか言っている。
灯は笑い、彼女に煙草の箱を差し出した。
吉岡さんのくわえた煙草に、灯が火をつける。
それから自分のにもつけようとしたところを、吉岡さんが押しとどめて手からライターを取り上げ、灯の煙草の先に火をかざす。
灯は微笑み、そこから火をもらった。
吉岡さんの姿が一瞬、姉に重なって見えた。
やめよう、やめよう、仕事中。
「佐鳥さーん、保険で入れてたカット、行けそうなんで撮っちゃいたいんですが、いいですか?」
「今行きます」
監督に呼ばれ、灯たちに背中を向けて急いで走った。
きつくなんかない。
きつくなんかないよ、一樹先輩。
でも、どこまで行っても、見えない壁が目の前にあるの。
灯はその向こうにいて、なのに私のものってことになっているの。
幸せなのに、どこかいびつなの。
私はどうすれば、灯と手をつなげるんだろう。
クライアントのアテンドも、現場での大事な仕事だけれど、灯がそこまでする必要なんてない。
自分のきつい口調にはっとした私に、灯が微笑む。
「そう言うな」
「ごめん」
「回す30分前には呼んでくれ。じゃあ、任せた」
草地のはずれのほうに、クルーの車がまとめて停めてある。
灯は吉岡さんを伴ってそちらへ行き、自分の車に彼女を乗せた。
車内灯に照らされたふたりが、嫌でも目に入る。
吉岡さんが、灯の腕に触れて、なにか言っている。
灯は笑い、彼女に煙草の箱を差し出した。
吉岡さんのくわえた煙草に、灯が火をつける。
それから自分のにもつけようとしたところを、吉岡さんが押しとどめて手からライターを取り上げ、灯の煙草の先に火をかざす。
灯は微笑み、そこから火をもらった。
吉岡さんの姿が一瞬、姉に重なって見えた。
やめよう、やめよう、仕事中。
「佐鳥さーん、保険で入れてたカット、行けそうなんで撮っちゃいたいんですが、いいですか?」
「今行きます」
監督に呼ばれ、灯たちに背中を向けて急いで走った。
きつくなんかない。
きつくなんかないよ、一樹先輩。
でも、どこまで行っても、見えない壁が目の前にあるの。
灯はその向こうにいて、なのに私のものってことになっているの。
幸せなのに、どこかいびつなの。
私はどうすれば、灯と手をつなげるんだろう。