クールな御曹司と愛され政略結婚
愛のありか
『唯子はかわいいなあ、素直だし、我慢できるし』
『私みたいになるなよ』
思い返せば、それらは姉の口癖だった。
ケンカした記憶もなく、特に仲のいい姉妹という自覚もない。
3歳違いなので、中学、高校とも入れ違い。
姉の奔放な言動は、逸話のように耳に入ってくるくらいで、それを目の当たりにしたことも、直接影響を受けることもなくて済んだ。
先生も含めた複数の男の人と同時につきあっていたとか、校内の女子からの嫌がらせを返り討ちにしたとか、友達のクズ彼氏を再起不能にしたとか、今思えばその逸話もかわいいものだ。
でも私にはまねできないものばかり。
* * *
「佐鳥さん、いいんですかあれ、見過ごして」
「あれってどれ」
「またまた」
三日目の午後、二度目の夜明けを撮り終えて、日が高く昇ったころ一度休憩し、日没待ちのためにまた集まりはじめたところで、木場くんが寄ってきた。
日中は日焼け止め担当をすると決めたらしく、アスリート向けの強いものから肌に優しいものまで取り揃えて、腰から下げた透明なバッグに入れている。
自前のクリームをつけてはいるけれど、そろそろ塗り直す時間なので、せっかくなら試してみようと思い、一番強いのを貸してもらった。
彼が目で示したのは、灯と吉岡さんだった。
みんなから少し離れたところで、折り畳み椅子を並べて談笑している。
灯は適宜、全体の様子に目を走らせているものの、吉岡さんのほうはもはや灯のことしか見ていない。
まあクライアントは、撮れたものをチェックして「OK」と言ってくれさえすればいいので、セッティング中は別に、ああいう状態でもかまわない。
けれど。
「ほら、完全にロックオンされちゃってますよ、灯さん」
「見ればわかるよ」
「見てるだけですかあ?」
「だって、どうすればいいのよ!」
八つ当たりが完全に口調に出てしまい、思わず口を押さえた。
木場くんがさっぱりした今風な顔を、にたっと歪める。
「佐鳥さん、最近そういう感じにボロが出るの、いいっす、俺的に」
『私みたいになるなよ』
思い返せば、それらは姉の口癖だった。
ケンカした記憶もなく、特に仲のいい姉妹という自覚もない。
3歳違いなので、中学、高校とも入れ違い。
姉の奔放な言動は、逸話のように耳に入ってくるくらいで、それを目の当たりにしたことも、直接影響を受けることもなくて済んだ。
先生も含めた複数の男の人と同時につきあっていたとか、校内の女子からの嫌がらせを返り討ちにしたとか、友達のクズ彼氏を再起不能にしたとか、今思えばその逸話もかわいいものだ。
でも私にはまねできないものばかり。
* * *
「佐鳥さん、いいんですかあれ、見過ごして」
「あれってどれ」
「またまた」
三日目の午後、二度目の夜明けを撮り終えて、日が高く昇ったころ一度休憩し、日没待ちのためにまた集まりはじめたところで、木場くんが寄ってきた。
日中は日焼け止め担当をすると決めたらしく、アスリート向けの強いものから肌に優しいものまで取り揃えて、腰から下げた透明なバッグに入れている。
自前のクリームをつけてはいるけれど、そろそろ塗り直す時間なので、せっかくなら試してみようと思い、一番強いのを貸してもらった。
彼が目で示したのは、灯と吉岡さんだった。
みんなから少し離れたところで、折り畳み椅子を並べて談笑している。
灯は適宜、全体の様子に目を走らせているものの、吉岡さんのほうはもはや灯のことしか見ていない。
まあクライアントは、撮れたものをチェックして「OK」と言ってくれさえすればいいので、セッティング中は別に、ああいう状態でもかまわない。
けれど。
「ほら、完全にロックオンされちゃってますよ、灯さん」
「見ればわかるよ」
「見てるだけですかあ?」
「だって、どうすればいいのよ!」
八つ当たりが完全に口調に出てしまい、思わず口を押さえた。
木場くんがさっぱりした今風な顔を、にたっと歪める。
「佐鳥さん、最近そういう感じにボロが出るの、いいっす、俺的に」