クールな御曹司と愛され政略結婚
「もとが仲いいだけあって、考えることも同じだったんでしょうね」

「はた迷惑な親です、申し訳ありません、本当に」

「業界的には世紀のビッグ・ウェディングですよ、どんな豪華なお式にされるんですか?」

「いえもう親族と身近な友人だけで、ごく地味に」

「もったいない!」



いやいやいや。

仕事関係者なんて呼んだら、それこそさらし者だ。

業界の有力者をみんな招いて大々的に、と夢を語る父親ふたりを、そこまでやってやる義理はまったくないと灯と黙らせ、親戚も入れて、参列者50名にも満たないささやかな宴にすることで押し切ったのだ。

本当は式そのものも蹴ってやろうと思ったのだけれど、そこはそれ、私も女なので、ウェディングドレスを着てバージンロードを歩いてみたいという夢はある。



「でも、そういった事情とはいえ、野々原さんみたいなすてきな方とご結婚なんて、正直うらやましいです」



なんだか最近、似たようなことをよそで言われたな。



「社内ではもう、ただのいじられネタですよ」

「祝福してらっしゃるんですよ、お似合いですもの」

「ありがとうございます」



無難に返事をして、「トレーラーのお話に移りましょうか」と話題を戻した。


 * * *


「お!」



控え室に入ってきた灯が、そう第一声を発したきり、立ち止まった。

続く言葉が出てこないようで、鏡台の前でメイクを直してもらっていた私は、そんな珍しい姿を鏡越しに見て驚いた。



「どう?」



繊細なレースに覆われた、純白のウェディングドレス姿を指さしてみせる。

灯は目を丸くしたまま、私の周りをぐるっと歩き、それからびっくりするほど素直な、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
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