クールな御曹司と愛され政略結婚
言ってよ
きっとここまで事情まみれじゃなくても、結婚というものはふたりだけの話じゃなくて、家族の人生にも多かれ少なかれ影響を与えるもの。
だったら、こんなに喜んでもらえているこの結婚って、スタートや経緯はどうあれ、成功事例と言えるんじゃない?
なんてね、甘いことを考えていた。
そんなふわふわした、形だけの成功、つつけば割れるわけだよ。
まさに、こんな具合にね。
私が近づくと、姉は両手を広げて迎えてくれた。
灯の後ろを通って、スツールの上の姉に、吸い寄せられるようにハグをする。
姉の肌は、ムスクみたいな、甘くてスモーキーな香りがする。
「唯子、さすが私の妹、ますますきれいになって」
「お姉ちゃん、今どこに住んでるの」
「灯と結婚したんだってね、おめでとう。無断で旦那を借りて申し訳ない」
「お姉ちゃん」
固い声を出す私に、姉は両手をひらひらさせて、降参のジェスチャーをした。
「悪かった、でも教えないよ」
「好きな人と結婚するって言ってたよね、それは?」
「教えない」
楽しそうに目を微笑ませて、細くて長い煙草を深々と吸う。
きれいに手入れされ、クリアジェルだけ塗った爪。
この"やりすぎなさ"が、姉のうまいところだ。
「びっくりした、俺の後ついてきてたのか?」
「うん、ごめん」
「別に、謝ることないけど」
再び腰を下ろした灯が片手を伸ばし、隣のテーブルからスツールをひとつ動かしてくれる。
小さな丸いスタンドテーブルを、三つのスツールが囲む。
新しく置かれた三つめは、当然ながら、灯の隣でもあり姉の隣ともいえる位置にあるのに、私は心理的に、二対一で対面させられているような気になった。
座ろうかどうしようか迷っている間に、マスターが灯にドリンクを持ってくる。
私にはおしぼりを手渡してくれて、それを受け取ってしまった以上、一杯は飲んでいかないとマナー違反だと腹をくくった。
だったら、こんなに喜んでもらえているこの結婚って、スタートや経緯はどうあれ、成功事例と言えるんじゃない?
なんてね、甘いことを考えていた。
そんなふわふわした、形だけの成功、つつけば割れるわけだよ。
まさに、こんな具合にね。
私が近づくと、姉は両手を広げて迎えてくれた。
灯の後ろを通って、スツールの上の姉に、吸い寄せられるようにハグをする。
姉の肌は、ムスクみたいな、甘くてスモーキーな香りがする。
「唯子、さすが私の妹、ますますきれいになって」
「お姉ちゃん、今どこに住んでるの」
「灯と結婚したんだってね、おめでとう。無断で旦那を借りて申し訳ない」
「お姉ちゃん」
固い声を出す私に、姉は両手をひらひらさせて、降参のジェスチャーをした。
「悪かった、でも教えないよ」
「好きな人と結婚するって言ってたよね、それは?」
「教えない」
楽しそうに目を微笑ませて、細くて長い煙草を深々と吸う。
きれいに手入れされ、クリアジェルだけ塗った爪。
この"やりすぎなさ"が、姉のうまいところだ。
「びっくりした、俺の後ついてきてたのか?」
「うん、ごめん」
「別に、謝ることないけど」
再び腰を下ろした灯が片手を伸ばし、隣のテーブルからスツールをひとつ動かしてくれる。
小さな丸いスタンドテーブルを、三つのスツールが囲む。
新しく置かれた三つめは、当然ながら、灯の隣でもあり姉の隣ともいえる位置にあるのに、私は心理的に、二対一で対面させられているような気になった。
座ろうかどうしようか迷っている間に、マスターが灯にドリンクを持ってくる。
私にはおしぼりを手渡してくれて、それを受け取ってしまった以上、一杯は飲んでいかないとマナー違反だと腹をくくった。