【短編集】その玉手箱は食べれません


 闘病生活5カ月と12日目。


 病院のベッドで横になっている妻は苦しそうに咳をしたあと、静かに目を閉じた。


 私は病室で老人からもらった面相筆を使い、妻の顔を描こうとした。


 すると筆をくれた老人が病室に入ってきた。


「あっ……」

 私は短く反応した。


「いまこそ自分の顔を描くときじゃないのかな?」

 老人からの質問がなにを意味するものなのか私には理解できた。


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