【短編集】その玉手箱は食べれません


 自画像を描くことに躊躇はなかった。


 私は泣いている自分の顔を思い浮かべながら筆を動かす。


 カラン、カランと面相筆が病室の床で軽やかにバウンドした。


「久し振りにこの筆が役に立ったかのう」

 老人は面相筆を拾い上げて病室から出ていった。


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