【短編集】その玉手箱は食べれません
男の子は窓を覗いて誰もいないのを確認してから絵描きの家に入っていきました。
無名の絵描きが妻を殺して姿を消したという噂が町中に広まって絵描きの家には近づかないようにと親から注意されていましたが、男の子はあんなに優しい人が人殺しなんてできるわけがないという確信がありました。
「誰かいませんか?」
男の子は礼儀としてひと声かけてから入りましたが、返事は聞こえてきませんでした。
静まり返った家の中で、目的はひとつ。絵を描く道具を探すことです。盗むつもりなんてありません。筆を握って画家の真似ができればそれでよかったのです。