【短編集】その玉手箱は食べれません


「私の目には見えないけど、まだその辺にいるんじゃない」

 元カノはにっこりと微笑む。


「じゃぁ、おれたちも……」


「そうね、そろそろ死ぬんじゃないかしら。あなたが閉じ込められていた部屋はごく一部。核シェルターは広くて食料などの必需品が山ほど残っていたけどさすがにウェディングドレスはなかったから外に出ることにしたわ。私はあなたと式を挙げられてこの世に未練はないの」


「あぁ~」

 おれは両手で顔を覆う。


「あっ、それからウィルスの名前は“レフト”って言うのよ」


「レフト?」と言ったあと、元カノとおれの左目からは赤い涙が流れ落ちた。

       <了>
            第九話へ

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