【短編集】その玉手箱は食べれません


「大変でしたね。大手のショッピングセンターが建つなんて噂を町中に流したり、逆にここの校舎がそのまま郷土館として使われる計画を秘密にするなんて苦労したでしょう」

 用務員のオジさんは白髪の男の肩をやさしく叩いた。


「役場の助役という仕事柄たやすいことですよ。それに娘のためを思えば……」

 白髪の男は言葉を詰まらせた。


「さぞ辛かったでしょう……」


「しかし、睡眠薬入りのコーヒーを疑いもなく、よく飲んでくれましたね?」


「あの4人には寒気が走っていたんじゃないですか。だから温かいコーヒーに手を伸ばしてしまったんです。この日のために用意しといてよかった」

 そう言うと用務員のオジさんは安堵のため息をもらす。

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