【短編集】その玉手箱は食べれません
「すいません。なにからなにまでお世話になってしまって」
「実は私も胸がスゥーとしてるんですよ。あの時代の生徒たちは校内暴力がひどくって私も意味もなく蹴られたもんです。見てくださいよ、この傷はもう消えない」
用務員のオジさんは作業ズボンの裾を捲ると赤黒い大きな痣を見せて愛おしく擦った。
「大変だったんですね」
白髪の男は心から同情した。
「あなたにくらべたら……」
用務員のオジさんは言葉が続かなかった。