【短編集】その玉手箱は食べれません
ぼくの家は下町の狭い路地が入り組んだ場所にある。
道の隅には手押しポンプ、畳屋の看板がなぜか「みたた」と右から左へ逆向きに書いてあり、蔦に絡まった家などが寄り添って建っている。
水たまりがある路地はよりいっそう狭くて、しかも板張りの堀から釘があちこち抜けて服が破けてしまうので大人は滅多に通らない。
それに突き当たりは急勾配の斜面で土砂崩れが起きないようにコンクリートで固めた法面(のりめん)しかなく、子供以外に使い道のない路地裏になっていた。