【短編集】その玉手箱は食べれません
「あっ、でもガラスじゃないから外が見えないじゃん」
男の子が素朴な疑問をぶつける。
「お母さんが話し相手になってあげるから退屈しないわよ」
「えぇ、やだぁ~」
「ほら、ソフトクリーム買ってあげるから中で食べなさい」
母親は通称バベル・エレベーター1階で観光客目当てに開いている露店に行き、ソフトクリームを息子に買ってあげることにした。
露店といってもビーチパラソルを差し、家庭用のアイスボックスを見張るように座っているおやじが厳つい顔で不味そうにソフトクリームを売っているだけ。
「ひとつください」
母親は露店のおやじにお金を渡した。財布に残ったのは小さなアルミ製のコインが2枚。