【短編集】その玉手箱は食べれません
おやじは無言のままプラスチックの容器に収まったソフトクリームを母親に渡す。
「ほら、乗るわよ」
「はぁ~い」
男の子は片手を上げて返事をする。
エレベーターの扉が閉まり、親子を運ぶ。
その姿をただじっと見ていたアイスクリーム屋のおやじに、腰の曲がったおばあさんが近寄ってきて独り言のように話しはじめた。
「清掃作業員を呼んだほうがいいんじゃないのかい?」
一方、エレベーター内では男の子が密閉された透明なプラスチックのフィルムを取るのに悪戦苦闘。