【短編集】その玉手箱は食べれません
「貸しなさい」
母親はペリペリッとプラスチックのフィルムを剥がして中身を出す。
冷暖房が完備していないエレベーターの中は蒸し暑く、ソフトクリームはすぐに溶け始めた。
「一番上にはなにがあるの?」と尋ねたとき、ソフトクリームが傾き、ボタッと塊が落ちた。
母親は注意することなく、エレベーターの角で息子に見えないように涙に暮れている。
男の子はソフトクリームの残骸を靴の裏でなくそうとするが、余計に染みが広がった。
おれ様の怒りは頂点に達していたが、これから先の親子の運命を考えると我慢することができた。