【短編集】その玉手箱は食べれません


 バイトで雇ったろくでもない奴が読む人のことなんてこれっぽっちも考えずに配り、新聞販売店は対応に追われ、ついには電話に出ることに嫌気が差した……まぁ、そんなところか……。


 出社の時間が迫っていることもあり、後日改めてクレームの電話をすることにした。


 スーツに着替え、手早く身形(みなり)を整えて玄関で靴を履く。


 すると流し台のシンクがボンと軽い音をさせた。


 4年間の大学生時代から苦楽をともにしてきたワンルームマンションは玄関のすぐ脇に台所があり、蛇口は横に捻るシンプルなタイプのハンドルがひとつ。

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