【短編集】その玉手箱は食べれません


 洗面台の鏡を見ながら、濡らしたハンカチで顔の泥を落とした。


 手で擦ってしまったせいか、想像していたよりも頬に泥が広がってしまう。


 スーツは濃紺なので泥はそれほど目立たないが、白いYシャツの襟にはこれ見よがしに茶色い染みが不快な地図を描いていた。


 個室に入り、ロックした。


 便座の横にはたくさんのボタンがついたコントロールパネルがあり、温風乾燥やターボ脱臭などという過剰な気遣いのボタン表示もある。

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