【短編集】その玉手箱は食べれません
「いままで置いてなかったほうがおかしいよ」
「そうかな」
「そうだよ」
「バケツないほうが学校の怪談として雰囲気でるのに」
「学校の怪談ってなに?」と僕は上の空で尋ねる。
「知ってるくせに。だからこの水たまりに興味を示してたくせに」
佐竹君が目を細くして卑しく笑う。
「知らないなぁ~」
「よく見るとバケツに水が一杯入ってるね。誰が用意したのかな?」
「知らないなぁ~」
「雨漏りの水をためるために置いたんじゃないようだね」
「掃除でもするつもりで置きっぱなしなだけでしょ」
「事件現場を荒らすのはよくないと思う」
「事件がどうかなんてわからないさ」
「五分前には置いてなかった」
「そうなんだ。だったら置いたのは僕かもしれないね」
関心なさそうに僕は応える。