【短編集】その玉手箱は食べれません
娘は高校を中退すると家出した。
止める暇なく、最低限の荷物を持ってどこかへ行ってしまった。
しばらく音沙汰がなかったので、警察へ捜索願を出そうと妻に相談すると返事は素っ気なかった。
「そのうち帰ってくるわよ」
妻と娘に会話はなかった。言い争いやケンカしたところを見たことはないが、仲むつまじい姿は記憶にない。
おれが覚えているかぎり、娘の服を妻が黙って町内会の会合に着ていったことが発端だった気がする。