【短編集】その玉手箱は食べれません
「そうだね」
カウンターを含め、30人くらい座れる喫茶店のマスターはタバコをくゆらせながら応えた。
「いつも午後7時から閉店間際の10時頃まで黙ったまま座ってますよね。しかも頼んだコーヒーにはひと口も手をつけない」
「そうだね」
「いつからここに来るようになったんですか?」
「そうだなぁ、30年くらい前かな」
マスターは視線を斜め上に傾け、不確かな答えを導いた。