【短編集】その玉手箱は食べれません
「なにかほしいものはあるかい?」
無駄な質問とわかっていて訊いた。スポーツ新聞や推理小説などオヤジが好きなものを買ってきても目を通すことはなく、いつも視線を白い天井に向けている。余命数日という死の宣告が気力を断ち切り、目を空虚感の中を彷徨わせている。
「また明日来るよ」
別れの言葉をかけて帰ろうとするとオヤジの細い腕が伸びてきておれの腕を掴んだ。意外なほど力強かった。
「ポチ2号に会いたい」
はっきりとした口調で頼まれた。久しぶりに感じたオヤジの強い意志だった。