【短編集】その玉手箱は食べれません


「30年?!」

 ウエイトレスは高い声を張り上げたあと、手で口を押さえた。


 マスターは注意することなく微笑む。

「構わないよ。お客さんは彼しかいないんだから」

 おじいちゃんが孫に話すようにマスターの喋りは穏やかで、ウエイトレスはカウンターの回転椅子に自然と腰を下ろした。


「なにか訳ありなんですか?」

 ウエイトレスは瞼を2回開け閉めして好奇心をふくらませている。


「彼とは古い付き合いで小学校からの幼馴染みなんだよ」
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