【短編集】その玉手箱は食べれません
「へぇ~」
窓際の席に座る客を横目でチラリと確認して小声で驚く振りをした。
幼馴染みなのに2人が会話しているところはおろか、挨拶したり、視線を合わせる場面にウエイトレスは遭遇したことがなく、きっとケンカでもして微妙な関係になっているんだろうと思った。
「マスターのほうがシブくてカッコイイですね」
若い娘のお世辞にマスターは年甲斐もなく頬を赤らめた。
「彼は嘘つきでね。でも人気があった」
マスターは気を取り直してタバコの煙を吐き出す。
「えっ?どういうことですか?」
ウエイトレスは首を傾げた。