【短編集】その玉手箱は食べれません


 バーは字が磨り減って解読不能な看板をぶら下げている。いまとなってはメインストリートで賑やかな通りに面していた時代を汲み取ることはできない。


 こげ茶のレンガ造りの建物に見覚えがあった。元喫茶店だった建物で狼男にマスターが襲われ、凄惨な現場となった新聞記事を思い出す。


 夜に営業するだけでなく、いわくつきの物件で商売するなんてよほど肝が据わった奴なのだろう。


 おれはズルズルと四肢の獣を引きずりながら店に入った。


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