【短編集】その玉手箱は食べれません
誰でもそうだと思うが、おれは無視(シカト)されることを毛嫌いする。相手に話しかけて返事がかえってこない時ほど惨めな思いをすることはない。
幼い頃、母親に「どうして人間は無視するの?」と尋ねた。すると「あんたに原因があるんじゃない?」と、とても有難い教えをもらった。
本当に役に立たない母親だった。
おれが過度な反抗期のとき、無視されたらおでこがつくくらい顔を近づけ、メンチを切った。相手が顔を背けるまで絶対に退かない。よってケンカは絶えず、おれの周りには誰も寄り付かなくなった。