【短編集】その玉手箱は食べれません


 横を通り過ぎようとする者はおれを遠ざけ、人混みの中へいけば輪が出来て悠々と歩ける空間が自然と広がる。


 おれが怖くて無視したくても無視できないのだ。


 心は優越感に染まった。


 完全に人間を人間と思わなくなった。食い物を盗み、人を傷つけて血を流すケガをさせても誰も歯向かってこない。罪悪感などなくなっていた。


 ふとあることに気づいた。おれ自体が空気のような存在になっているのでは?という不安だ。孤独感や虚無感がそんな弱みを生み出すのだろうか?


 考えれば考えるほど不安がじわじわと染み込んでくる。


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