【短編集】その玉手箱は食べれません


 最愛の妻が銃で頭を撃って自殺していたのです。


 貧乏暮らしに疲れ果てていたのかもしれません。遺書はありませんでした。


 絵描きは泣きながら動かなくなった妻の体を抱きかかえました。頭から鉄の錆びた臭いがしました。


 絵描きはべっとり血のついた妻の髪を使って筆を作ることにしました。


 軸となる部分の竹を火で炙り真っ直ぐに形を整え、指先の感覚で妻の髪をカミソリできれいに切り揃えました。



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