【短編集】その玉手箱は食べれません


 絵描きはせめて楽しかった思い出を残そうとしました。


 作ったばかりの筆で2人が幸福そうな顔をして寄り添う姿を想像しながら絵を描きはじめました。


 どうでもいい自分の顔からサッと描き上げました。


 隣人がドアを蹴破って入ったとき、妻の死体の脇にいた絵描きがフワ~と霧のように消えました。


 未完成な絵と面相筆を残して……。


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