【短編集】その玉手箱は食べれません


 アウトドア用の折りたたみの椅子を広げてひたすら客を待つ生活。


 地下街へ通じる階段もあっていつもなら何人かは引っ掛かるのにこのところ天候が不安定で客足が鈍い。


 今日も風が吹くたびに雲が流され、通り雨が何度も通過していった。


 不安は的中。夕方になっても私の前には客は現れない。


 ただし隣に陣取っている白くて長い顎鬚の老人には客が絶えない。

 
 老人の似顔絵は人気があって列ができることもある。


< 89 / 197 >

この作品をシェア

pagetop