最低彼氏にはさよならがお似合い



櫻井夏帆、広告企業の企画課に勤めること7年。

少数精鋭の企画課は人数が少ないだけあって、みんな距離が近く仲がいい。

その上みんな飲み会好き。
だから


「夏帆さん、今日は俺が幹事なんで期待しててください」

「高橋に言われてもなあ、期待はしてないけど」

真顔で返せば、2年目の新人 高橋は、悲しげに眉を下げる。

「ちょっ、夏帆さんいつになく酷くないですか」

それを存分に楽しんで、笑いながら素直なところも告げておく。

「まあ楽しみにはしてるよ」

「……はい!夏帆さん一生ついていきます」

「それは鬱陶しい」

話を聞いていた周りの人たちが笑う。
これも日常茶飯事、馴れたものだ。


見計らったようにタイミングよく始業のベルがなった。

化粧品、ジュエリー、ファッション、その他色々、それらの広告を企画して実行まで持っていくのが企画課の仕事。

企画課の中でも小さくグループ分けされていて私の所属しているのは、ジュエリー専門。

約10年前から、自社でもジュエリーを作り始めたこともあって1番力が入っている。


今日中に、顧客からのデータの集計を元に次の商品のイメージを膨らませて、ああ、高橋のフォローも頼まれてたんだっけ、あとは……


「櫻井ー、会議」

「2分で行きます」

3つ上の先輩、相川さんは入社したての頃からお世話になっていて、いまも変わらずタッグを組んでいる。

頭と手を同時に動かしているときは聞こえてきた言葉に、口の動くまま返事をするから何を言っているかよく覚えていないことも多々ある。



それでも

「いいよいいよ、櫻井は10分遅れたってみんな待っててくれるって」

その発言には流石に思考を一時停止して、データ入力の手だけを動かす。


「……なんでですか」

「今日誕生日でしょ」

いや、それ全く関係ないと思いますけど。
このなんとも言えない緩さが相川さんらしさ、とも言う。


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