最低彼氏にはさよならがお似合い
「夏帆、照れた」
「……仕事中」
「夏帆、夜 ご飯行こう」
「予定ある」
「なんの」
「秘密」
リズムよく続いていた会話が途切れ、妙な間の後。
「…………男、?」
yesともnoとも言いたくない、この心理は。
そんなこと考え始めたら、いやそもそも始める必要なんてない。
だから。素っ気なく相槌に留める。
「かもね」
「……夏帆、」
運転中にも関わらず、奴の左手が私の右手を掴み、握りしめてきた。
「離して」
「夏帆が行くって言ったら」
「子どもじゃないんだから」
「駆け引きって言って欲しいな」
「水瀬」
「ねえ、夏帆」
つい、水瀬を見上げそうになった。
それを阻止するかのように、鳴り響く着信音。
電話にでるついでに、然り気無く右手は振りほどいた。
「はい、櫻井です」
電話しながら資料を繰り始めた私の横で、聞こえてきた舌打ちはたぶん幻聴。
と思うことにする。