最低彼氏にはさよならがお似合い


「───はい、じゃあそれで、お願いします」

資料を片づけ、切れたスマホをじっと見つめていれば 、印刷所に着いた。


その間会話なし。

それでも仕事のスイッチが入れば、爽やかスマイル全開で、相手を押し切るし、頭は回るし、車の中での気まずさをものともしない。


よろしくお願いします。
そう担当者に頭を下げ、印刷所をあとにする。

すでに就業時刻は過ぎていた





「水瀬お疲れさま」

「おー、お疲れ」


車に乗り込むと、エンジンをかけずに水瀬は体をこちらに向ける。



「さて」

爽やかな笑みに口を開いた水瀬に身構えて、変なこと言われる前に先手をうつ。


「帰ろうか」

ところが懲りないのがこの男。

「俺の家に?」

「誰がそんなこと言った」

「夏帆と俺しかここにはいないよ」

「分かってるなら駅まで送って」

「え、きこえないー」

いい加減話を聞け、と怒鳴りたくなる。
人前では紳士で大人ぶってるくせ、本性は子どもだ。呆れるほどに。


「ご飯食べに行こ」

「帰りたい」

「ちゃんと連れて帰るから」

「私の家に、よ。」

「よし。パスタの美味しいとこだから絶対夏帆気に入るよ」

「……話聞かないのは相変わらずね」

「夏帆怒るなよ、」

「水瀬が怒らせなければいいでしょ」

「ところで。いつになったら名前で呼んでくれるわけ」

「ただの同僚なんだから、苗字でも困らないでしょう」

「今はプライベートだから」

「それでもただの同僚」

「夏帆らしいけどな」

ばっさり、切っているのにそれでもどこか嬉しそうに笑う水瀬に、毒気を抜かれる。



「わかったわよ、ご飯行くから」

昔からそうだ、結局折れるのは私。
満足げに微笑むのは水瀬。


別れたって根本的なとこが変わってないんだから我ながらどうしょうもない。


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