最低彼氏にはさよならがお似合い
しかもこの男は、むかつくほどに私の好みを理解している。
お洒落で隠れ家的なそのレストランは外装も内装も私好みで、控えめに流れる洋楽とジャズに、笑顔になれずにはいられなかった。
「夏帆こういうとこ好きだよな、昔から」
「知ったような口聞かないで」
「夏帆」
店をじっくり眺めるフリして水瀬の視線から逃れる。
「夏帆」
なんでこの男はこんなに名前を呼ぶのが好きなのか。
「かーほ」
この男の声が甘く聞こえるのは私の耳が悪くなっているのか。
「かほってば」
「……そんなに呼ばなくても聞こえてる」
舌打ちをしなかっただけ誉めてほしいくらいだ。