最低彼氏にはさよならがお似合い
「どう、お嬢さん俺に誘拐される気ない?」
「警察って110よね」
「夏帆~」
すがるように名前を呼ばれたって、犯罪者予備軍にはそれ相応の対策をとらないとね。
「冗談だから、夏帆。
…………………………なんでそんな嬉しそうなの」
「え?水瀬が強制的に大人しくしてくれるからに決まってるじゃない」
「え、夏帆。なにいってるの」
ふっ、と鼻で笑った私に突き刺さる鋭い白い目。
それから然り気無く視線を反らせば、視界に入った私の居城。
タイミングばっちり、心の中でそのタイミングのよさに拍手を送り、心からの満面の笑みを水瀬に向けた。
「あ、着いた。送ってくれてありがとう。またあした」
「待て待て」
車のドアを開けたのに、右腕を掴まれる。
「なに、お礼にお茶でもなんて言わないわよ」
「言えよ」
「いーや、早く帰りなよ」
「夏帆、ちょっとは流されろよ」
「ご飯行ったでしょ。お疲れさま」
水瀬の力が緩んだ隙に、車を降りてドアを閉めた。
手を振って見送れば、ようやく去っていった。
なんだか、ものすごく疲れた。
早くお風呂入って寝よう。