最低彼氏にはさよならがお似合い
カタンッ、エンターキーを押してパソコンをスリープさせるとデスクの上の資料を抱え、急いで歩き出す。
ちなみに、相川さんは入り口から声を寄越していたので、にっこり笑ってこっちを見ている。
「お待たせしました」
「流石。だけど、遅れてもいいって言ったのに」
「……そうですね、相川さんは誕生日プレゼントくれないんですか」
この人の話には一々取り合わなくていいと学んだ7年。
「んー、なにがいいかな。
櫻井何欲しい?」
「対処に困らないものがいいです」
「うーん、」
黙り込んで、若干早足になる相川さん。
彼の考えているときの癖だけど、そんな真剣に考えなくていいのに。
3分もかからない距離の会議室へ着き、ドアノブに手をかけた。
「水瀬、とか?」
完全に動きを止めた私を、きっと後ろから面白がって鑑賞でもしているだろう。
「…………い、りません」
辛うじて口にした言葉は果たして聞こえたのか。
その名を振りきるように、いつも以上に仕事に集中した。
何故、その名が唐突に久しぶりに現れたのか。そこに頭を回す余裕がなかったのが、幸か、不幸か。
そもそも、1番対処に困るものを挙げてくるあたり、相川さんはかなりいい性格している。
でも実際相川さんの腹の中が真っ黒なのは今に始まったことじゃない。