最低彼氏にはさよならがお似合い
終業ベルがなる。
普段なら金曜日だし、残業している人がほとんどなはずだが、今日は誰もが我先にとパソコンをシャットダウンしていた。
「せーんぱーい!」
柚花ちゃんが走ってくる、いつも可愛いが今日は一段と気合いが入っていて、3割増くらいで可愛い。
その間も、片付けを終えた人からお先にとか、先始めてるよとか、思い思いに私に声をかけて帰っていく。
「なんか、やっぱり私おまけだね」
しみじみ一人言を落とせば、姿の見えなかった高橋が突然現れる。
「夏帆さん何言ってるんですか!夏帆さんの誕生日の飲み会だからこれだけ人集まるんですよ。早く行きましょうよ」
「みんな飲みたいだけでしょ。あれ、そういえば高橋、あんた幹事じゃないの?
ここにいていいの?」
「そーよ!高橋、早く行きなさいよ」
そうか、柚花ちゃんと高橋は同期だったのか。
ひとり勝手に納得していると、柚花ちゃんに催促される。
「先に下降りてて。私部長に声かけてくるから」
仲良く口喧嘩しながらフロアを出ていく二人を微笑ましく思いながら、壁が置かれ隔離された場所にある部長室へ。
ノックして磨りガラスを開ける。
「部長」
いつでも穏和な笑みで出迎えてくれる笠原部長は、私の父親の友人で第2の父親的存在。
「夏帆ちゃん、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。部長も飲み会来てくれますよね?」
「勿論、夏帆ちゃんの為の飲み会だからね。高橋くんも張りきってたね」
「高橋はそのやる気をもっと仕事に向けるべきです」
「まあまあ。これからが楽しみじゃないか」
「そうですね、まだ仕事かかりそうですか?」
「うん、ちょっと予定がずれてね。
でも一次の間に顔は出すよ。必ず」
「はい。待ってますね、じゃあお先に失礼します」
ほっと、心に余裕ができる。
部長と話すといつも、だから慌てていたり落ち込んでいたり行き詰まったときは部長の所へ行く。
これは私だけじゃなくて、企画課の人はほぼみんな経験しているはず。
少し早足で、気分的にはスキップしたくなりながら、グランドフロアに降りる。
「せんぱーい、急ぎましょ~」
待っててくれたらしい、柚花ちゃんと高橋にお礼を言って歩き始めた。