最低彼氏にはさよならがお似合い
「……なによ、」
「俺にも入れてよ」
「は?」
「珈琲。夏帆が入れるの美味しいから」
なんだ、そんなことか。
別にいいけどさ、それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。
心の中で不満を呟きつつ、珈琲をドリップする。
「…………はい、」
「ん。さんきゅ」
水瀬は煙草の火を消すと、マグカップを受け取った。
出ていくタイミングを損なって、給湯室でふたりで珈琲を飲む。
「やっぱり夏帆の珈琲美味しい」
「……ありがと」
「なあ」
「ん?」
「……夏帆」
勿体ぶるように口を開くも、再び口を閉じる水瀬は、珍しい。
いつもなら言いたいこと躊躇せずに言うくせに。
「……や、なんでもない。珈琲ありがとな」
何か言いたげな表情をしながら、言葉を飲み込んでそっと笑みを浮かべた水瀬は、颯爽と席に戻っていった。
なんか、私があいつから離れがたかったみたいになってないか、これ。
なんて、どうでもいいことを考えて気を紛らわせていないと、さっきの水瀬の途切れた言葉の先を考えてしまいそうになる。
日頃関わりがあるうちは散々文句も言えるのに、時が経つほど距離が今までの自分の振るまいが分からなくなる。
これもあの男の作戦のうちだったりしたら、ムカツクけどあり得なくもない話。
かなり自意識過剰だけど。
そんな、平和をもやもやが視界を霞めるようになった頃だった。
その噂がやって来たのは。