最低彼氏にはさよならがお似合い
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予約していた高橋、と言えばすぐに最奥の座敷へ通された。
既に空になったビール瓶もあり、先に着いていた約30人はみんなアルコールが入っていた。
「皆さん、お待たせしました!主役の登場です」
わざわざ目立たせてくれた高橋を横目に睨みつつ、押しつけられたグラスにビールが注がれる。
「それではー、夏帆さんの誕生日をお祝いして。かんぱーい!!」
カツンカツン、あちらこちらでグラスのぶつかる音がする。
寒いところからいきなり暑いところに入ってきたからか喉が乾いて、ビールを一気に煽る。
空になればすぐさま、注がれた。
その都度、注いでくれる人は代わるし、周りに座っている人も変わるし、アルコールも程よく効いていて。
「櫻井さんって、彼氏いないんですか?」
さっきから、一体この質問を何度されたことか。
男女問わず、後輩中心に聞かれ過ぎて、あんたらどれだけ私に寿退社してほしいのよ、と叫んでやろうかと思ったくらい。
「いないわよ、そういう○○はどうなの?」
そう返せば、あとは勝手に話してくれる。
金曜日だからか、年末で仕事が立て込んでてストレスがたまっているからか、全体的にいつもよりアルコールが強くて、多くの人が近くの人にすぐ絡みに行っている。
「みんな楽しそうね」
ひとりごと、だったのにいつの間に隣に来たのか、相川さんが優雅にビールジョッキを傾けていて、私のそれに反応した。
「櫻井のこと忘れてるね、これは完全に」
忘年会並みのはっちゃけ様だ、今年は忘年会やらなくていいと思うわ。
「それぐらいでいいです。目立ちたくない」
「櫻井だからね、」
「どういう意味ですか」
「そのまんまだよ。
櫻井の誕生日を祝うってだけでこれだけ人集まって、みんな櫻井にビール注ぎに来ようとする。村人Aみたいな名前すらない人だったらあり得ないってこと」
「……そうですか」
実はこのとき、思考は完全に停止状態で適当に言葉だけ発してた。
だから、相川さんの言ってたことは覚えてないし分かってない。