最低彼氏にはさよならがお似合い
都会の夜は静かになるということを知らない。
私たちの間でどんなに沈黙がたまっていってもそれをものともせずに、何かしらの音を立てている。
それでも電車に乗って、駅から遠ざかり、住宅街に踏み込めば一気に静かになる。
なおも相川さんは沈黙し続けるから、私も会話の糸口に困って、家の前に着くまで一言も会話はなかった。
「相川さん、送ってくれてありがとうございました」
「ごめん、櫻井」
お礼に対し返ってきたのは謝罪の言葉。
呆気にとられた顔をしている自覚は十分ある。
それを見留めた相川さんも少し苦笑する。
「俺やっぱりそんなに辛抱強くないみたいだ」
ふわりと初夏の生温い風が二人の髪をなびかせる、それと同時に暖かい安心する温もりに身体が包まれる。
「櫻井、好きだよ」
この年になると曖昧になるその言葉は思っていた以上の威力があった。
「俺のとこに来て」
その言葉とは裏腹に身体を離される。
私の意思に任せるという意思表示、だと思う。
そうは思っても顔が熱を持ったのがわかって、見られないようにと俯く。
そんな私を誤解したらしい相川さんは、これは言いたくなかったけど、と前置きと共に止めの一言。
「他の男のこと想っててもいい、忘れさせてやる」