最低彼氏にはさよならがお似合い
「襲われたいのか」
実はこの飲み会そのものが夢だ────────チュッ
そう思い込もうとした矢先
唇に触れたそれ。
反射で目を開ければ、満足げに微笑みを浮かべる水瀬智一。
「最初から素直になればいいんだよ」
「なにする、のよ」
私の睨みなんて、気に求めずこの男は言葉を紡ぐ。
「ただいま、夏帆」
「あんたなんか知らない」
淡々と言葉をはいて、水瀬から視線を反らすも
「寂しかったんだろ?」
「……忘れてたわよ」
「とりあえず帰ろう」
「やだ、二次会でるわ」
「野崎と芹澤に連れて帰るって言ったから」
部署は違うが参加していた同期二人の名を挙げられ、ため息。
「勝手に何してるのよ」
「ほら鞄、行くぞ」
手を繋がれれば、足を動かすしかなくて、もう考えることを放棄した。
会ったら言ってやろうと思ったことが沢山あったのに、ひとつも言葉にならないまま連れてこられたのは
「待ってよ、なんであんたの家なのよ。私帰るってば」
「聞きたいこと、あるんだろ?」
自信満々な顔で、ふたりのとき特有の甘い声で囁かれる。
「……別に」
「そう。でも俺が夏帆を離したくないから」
その囁きになにかが切れた音がした。
実際にした音は、私の平手打ちが水瀬の頬に命中した音なんだけど。