思い出す方法を教えてよ
「記憶も戻ったみたいだし、大きな怪我もなかったから良かったものの……」
「すみません」

またしても病院に運ばれてしまった私と夏樹はお医者さんに叱られた。わざと階段から落ちて、記憶を取り戻そうとしたんだと誤解されているみたいだった。
わざとじゃないんだと言いたかったけど、この短期間で同じ階段から2人で落ちたことが偶然だなんて、そっちの方が嘘っぽいから、言い訳せずに謝ることにした。
お母さんにも叱られた。やっぱり言い訳せずに謝った。

また入院になるのかと不安だったけど、検査が終わったら、その日のうちに家に帰れることになった。

「理央」
「検査終わったの?」
「うん、異常なし。理央は?」
「終わったよ。私も異常なし」

夏樹は私をじっと見つめて、理央と呼んだ。

「なに?」
「好きです。僕ともう一度付き合ってください」

深々と頭を下げられて、きょとんとしてしまった。ああ、そうか。私はまだ謝っていなかった。夏樹の中では、私と別れたことになっているんだ。
私が返事をしないからか、夏樹は恐る恐る顔を上げて、私の様子をうかがう。

「……だめ?」
「ううん。こちらこそ、お願いします」

私も深々と頭を下げる。

「夏樹、ごめんね」
「え?何が?」
「夏樹は本当に私のことが好きなのか不安になって、勢いで言っちゃったんだよね……」

夏樹はきょとんとした後に、ため息をついた。

「勢い……」
「ほんと、ごめんね」
「いや、元はと言えば、僕が不安にさせたわけだから」
「うん。それはそうなんだよね」
「そこは否定しないんだ」

私が笑うと、夏樹も笑った。
記憶が戻ってよかった。また夏樹と笑い合えてよかった。
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