思い出す方法を教えてよ
優しさと強がり
私と夏樹は退院することになった。怪我は軽いものだったし、頭を打った影響も心配いらないという診断だった。
何も影響がないというわけではなく、夏樹の記憶は戻っていないそうだ。
これまで通りの生活をすることで、不意に記憶が戻ることもあるらしい。病院にいても、注射や薬で治せるものじゃない。
私は夏樹の病室を飛び出してからは、もう夏樹の顔を見に行かなかった。謝らなきゃとは思うけど、気まずい。

そんな状況のまま、私は普通の生活に戻った。夏樹との関係だけが変わってしまった。一緒に登下校することも、会話することもない。

漫画のヒロインは強いなと思った。漫画なんだから当たり前かもしれないけど、普通はこんな状況で、「私が思い出させてみせるから!」なんて言えっこない。たとえ隠れて泣いていたとしても、強い。
そんなことは言えなくても、「いつか思い出せるから大丈夫だよ」って笑えるくらい大人ならよかった。
私は子供だ。夏樹が一番困惑しているはずなのに、感情的になって八つ当たりしてしまった。

全部全部消えてしまったことが信じられなかった。最近のことだけじゃない。私の存在だけが綺麗さっぱり消えてしまった。幼稚園も小学校も中学校も一緒だったのに。
記憶喪失なんて、私とは無縁の話だと思っていた。フィクションの世界では起きるけど、現実世界では滅多にない、遠い話だと思っていた。
まさか、すぐ近くにいる幼馴染が記憶を失うなんて、一ミリも想像していなかった。
< 5 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop