恋色流星群
episode4
1
最後のお客様を見送って事務所にあがる。
お店で冷えた体が、もう汗ばむ。
一歩外に出ると、熱帯。
今年も毎晩が熱帯夜で、どれが本物かもう分からない。
事務所のドアを開けると、耳慣れたイントロ。
『アヤちゃん、また聴いてるの・・・もう飽きたな~。汗』
「なに言ってんですか!癒しの時間なんですから♡
ほっといて、さっさと帰ってください♡」
ドレスを脱ぎかけた、はだけたままの格好でアヤちゃんが見入るiPadに映るのは。
planetのボーカル、要陽斗と。
“謎の美女”。
「いや~~、すごいっすよ理沙さん。
知ってます?このMV、公開後10日で100万回再生されたって。
この理沙さん、めっちゃくちゃ綺麗ですもん。プロってすごいな〜!!」
褒めてんの?それ。
ため息をつきながら、ベアトップのドレスのチャックを下ろした。
「顔はほとんど写らないから」
「メインはplanetのメンバーだから」
倫くんに鮮やかに裏切られ、もろ顔出しされた私は。
お恥ずかしながら、Yahoo!の検索ランキングに入るほどの“時の人”と、なってしまった。
とんだ迷惑だわ、本当に。
さらなるご活躍を心よりお祈りしておりますが、私は自分の世界で心穏やかに暮らしたい。
「うっわ、この陽斗えろ~!!♡」
『お疲れさまでーす。』
飽きもせずに、手放しでキャーキャー言ってるアヤちゃんを完全無視し。
一人、事務所を出た。
一旦お店に顔を出す。
『葵ちゃん、来た?』
「来てるわよ。」
ブスッとふてくされた顔で、タバコの煙を吹く。
『怒んないでよ。笑
じゃー、また明日ね。』
ボーイくんたちの「お疲れさまです」コールの中。
ひらひらと手を振りながら、お店の真ん中を通り裏口へ向かう。
やばい、リップくらい塗り直せばよかった。
タバコ臭くないかな。
髪、まとめてくればよかった。
ときめきと比例して募る、甘い後悔。
裏口へ続く小さなドアを開ければ、華やかな六本木のクラブ街裏通り。
見慣れた一台の車に近づくと。
運転席から手を伸ばし、助手席を開けてくれる姿が目に入る。
『ありがとう。』
気持ちよく冷えた車内に腰を滑らし、BVLGARIの香りに包まれれば。
「お疲れさま。」
甘く優しい音色が耳に降って、張りつめた気持ちがほぐれる。
一瞬で私を蕩けさせる
要くんの、完全無欠の笑顔。