恋色流星群
ピアスを外しながら、音楽をかけようとリモコンを探していると。
iPhoneが震えて着信を知らせる。
“剛田大”は、私の帰宅時間を測っているかのように。
ほぼ毎晩、同じタイミングに画面に現れる。
『またおめーかよ。』
「なんだそれ。笑
帰った?」
ざわざわしてる背景で、いつも以上に声が遠く感じる。
『いまどこ?』
「外。スタジオの、外な。」
時計を見ればAM1:00を過ぎたところ。
私は早く終わったほうだけど、まだ働きざかりの模様。
もうすぐ公開の映画に出演されているという剛田さんは。
チョコや要くん、他のメンバーと別行動で宣伝活動に励んでおられるらしく。
ハワイから帰国して顔を見せたのは一度きりで。
その代わり、昼夜問わず“ストーカー”並みの鬼電を繰り広げてくる。
「今日、陽斗は?」
『来たよ。』
なぜか、要くんが迎えを始めたことも知っていて。
知れば怒るかと思ったのに、「おとなしく送られとけ」と逆に言いくるめられた。
一人で帰ってるなんて知らなかった、と呟いた声は微かなイラだちを含んでいて。
私は航大に悪いことをしていたような、申し訳なさを錯覚した。
「お前、メール返事しろよ。」
『送ってきすぎだよ、忙しいんですけど。』
「返事来ないと心配すんだろ。」
『たのんでない。』
だって。
“起きてる?”に“寝てます”と返信しても。
どうせ、電話してくるんじゃない。
会話になってない。
「あーーーーー!!」
『なに?お風呂入りたいから切るよ?』
窓から覗いた夜空の月は、細く切った爪のようにシャープで。
触れたら簡単に、折れてしまいそう。
「だめだ、すげぇ会いたい。」
さっきまであんなに声が遠かったのに。
急に周りはしんとして、その一言だけがダイレクトに耳に届いた。
妙な間を空けてしまって、焦る。
『じゃね、切るよ?まだまだがんばってね~。』
この時間に航大の声を聴きたくないのは。
腕が、唇が、舌が
あの夜の熱を思い出すから。
慌てて逃げるバスルームには、今朝のローズの香りがまだ残っていて。
どこに逃げても追ってくる気配に
今宵も見事に囚われる。