恋色流星群
2#葵side
鍵を締めようと事務所に上がると。
帰り支度を終えたアヤがまだiPadを覗きこんでいた。
「あんたまだいたの?締めるよ、帰りな。」
ゴミ箱から溢れたコットンや綿棒を拾う。
「葵さーん、これ見ました?」
顔も上げないままのアヤが見入るのは。
理沙子が出演したplanetの例のMV。
ほんとにこの子は、一人で再生回数に大きく貢献していると思う。
「見たわよ、むかつくけど。」
快くハワイには送り出したけど。
まさか、こんなに陽斗くんと絡みがあるなんて聞いてなかったわよ。
お土産のディオールのサングラスで、だいぶ心は落ち着いたけど。
「理沙さん、めちゃくちゃきれい。
こっち見られると、女の私でもドキっとする。」
意外、だと思った。
アヤが繰り返し見入るのは、推しメン(で合ってる?)の七瀬や直生くんではなく。
理沙子だった模様。
「あの子は、色の白さと肌の綺麗さで得してるよね。」
「葵さん、僻み?笑」
「違うわよ、本人がネタにしてるからいいのよ。」
アヤを帰そうと、エアコンと半室の電気を落とす。
「ほら、帰ろ。」
「葵さん。
理沙さん、これから航や陽斗とデキたりは、しない?」
乙女な発想。
だけどあたしには、どちらかと言うとアヤが気にしてるのは理沙子の方な気がした。
「ないね、それは。」
ドレッサーに腰掛け、タバコに火をつける。
「翔さんを超える人は、なかなかいないよ。」
「翔さん?」
「ほら、もういーから。送りの車なくなるわよ。」
思わず出てしまった言葉を撤回することはできず。
代わりに、訝しげな表情のアヤを問答無用で追い出した。
一人になった事務所で、2本目のタバコに火をつけるか迷う。
青野翔。
理沙子にとって、最初にして最高の男。
あたしは何度かしか会ったことはないけど。
あんな男は、二度といないと今でも思う。
それはきっと、理沙子自身が一番そう思ってる。
翔さんじゃなくても、七瀬くんなら。
この3年間で個人的にはそう思ったことも、ないわけではないけど。
陽斗くんが迎えに来る夜、理沙子は席でよく笑う。
あの子はそれに
まだ気づいていない。