恋色流星群
3
お店の送りの車で帰らなくなったのは、入店当初なかなか先輩お姉様方とうまくいかなかったから。
お店を出たら早く一人になりたくて、タクシーで直帰するようになった。
女子の世界だからね。
そりゃあ、いろいろありますよね。
けど、今なら分かる。
こんな六本木の老舗クラブに、20代そこそこの小娘がやって来たら。
私でも疲れるし、面白くなかったかもしれない。
まぁ私なら。あんな意地悪は、しないけどね。
時が解決してくれる、というのは本当。
5年の歳月の中で大分新陳代謝は進み、在籍期間だけは古株と言われるまでになった。
この仕事に拘りがあったわけじゃないけど。
やりかけたことを途中でやめるのは、負けな気がしたから。
そのうち天職だとかナンバーワンだとか煽てられるようになって。
見事に、今日に至るまでになってしまった。
『あ、今日はここで降ろしてください。』
たまたま捕まえたタクシーの運転手さんが馴染みの人だったから。
過ぎそうになるコンビニの前で慌てて声をかけた。
「え?ここでいいの?」
『はい。コンビニ寄りたいんで。』
「危ないな~。最近、ここら辺物騒なんだよ。
明日にしたら?それか、すぐなら待ってるけど。」
夜の世界の人は。
顔なじみになれば、驚くほどあったかくて人情深い。
コンビニからマンションまでは歩いて10分ほど。
『大丈夫♡おじちゃんもお疲れさま。』
少しだけ多めにお金を置いて、タクシーを降りた。
大したものが欲しかったわけじゃなくて。
翌朝食べるヨーグルトがどうしても欲しかっただけ。
油断、していた。
変質者にもナンパ師にも、“人気”があるほうだったのに。
人間というのは、本当に。
喉元過ぎれば
熱さも忘れる。