恋色流星群
お店に入って数分後には、粘つくような視線に追われているのを感じた。
経験上、こういうときに目を合わせてはいけない。
絶対に顔を上げず、動じた態度を見せず。毅然とした態度で、退散するのみ。
お店を出たら家まで走ろう。
そう思って会計を済ませ、足早に出口へ向かう。
やばい、この人追ってくるかも。
直感でそう感じ、お店を出た瞬間、走り始めた。
住宅街を走り抜ける。
自分のヒールの音とは確実に違う、地面を蹴る音が追ってくる。
やばい。
久々に、これはやばいかも。
運転手のおじさんの忠告がリフレインする。
マンションが見えた、と思った瞬間。
「ねぇ、」
鞄の紐を掴まれた。
前のめりに転びそうになり、思わず振り返ってしまった顔には。
全く知らない男の、暗い目。
頭の中の警報が、異常なほどに鳴り響く。
「遊ぼうよ。ここら辺に住んでるの?」
声が出ない。
この人の目。
やばすぎる。
「おねえさん、すごい綺麗だよね。俺とも遊んでよ。」
『・・・離しっ・・・てっ・・・』
喉の奥からは振り絞るような声しか出せない。
鞄を離させようと肩に力を入れるけど。相手が強いのか私が弱いのか、全く動かない。
「うわ~、声も可愛い。ねぇ、ちょっとこっち来てよ。」
掴んだ鞄を引きずるように、男が歩き出した。
こんな男に、私の体は容易く引きずられ抵抗ができない。
鞄もいらない。逃げたい。
そう思っても、体が動かない。
助けて、誰か助けて。
口を開けても声の出し方が分からない。
マンションが遠ざかる。
やばい、この先には裏道がある。
連れて行かれる__________!
「人の女に何してんの」
次の瞬間、
後ろから体ごと大きく抱きかかえられ
聞きなれた声が夜道に大きく響いた。
男は鞄ごと私を奪われ、体勢を崩して地面に倒れる。
「・・・いって・・・」
「人の女に、何してんだよって言ってんだよ!」
繰り返される真上から深く響く声と
私を包む、濃いシャネルの香り。
視界に入ったクロムハーツに
視界が滲んだ。